右肩上がり志向はやめられない 太平洋セメント株主総会

6月28日、定時株主総会を開催した太平洋セメント。不死原新社長が就任し、新たに「20中期経営計画」を策定したが、相も変わらぬ右肩上がり志向。大丈夫なのか?

会場前で株主にむけた宣伝活動

創立20周年の太平洋セメント。かつては販路拡張競争でしのぎを削った小野田セメントと日本セメントの両雄が合併して現在にいたるが、経営陣の思考方法は先輩たちの旧弊からいつまで経っても脱却できないようだ。

「20中期経営計画」は今期(2018年度)~2020年度の3カ年が対象期間だが、福田前社長の「17中計」と同様、またもや「ホップ、ステップ、ジャンプ」の成長戦略となっている。少子高齢化で需要減少時代に入ったのは明らかなのに、時代の趨勢が読めないのだろうか。

また、株主総会では連帯ユニオンの株主が、レイシストと結託した大阪広域協の現状をとりあげ、グローバル経営を標榜する以上、大阪広域協の一部執行部の無分別な行動に毅然とした対応を示す必要があるのではないかと質した。さらに、太平洋セメントの大阪府下のSS(セメント出荷基地)を業務管理会社の依頼で徘徊する事態までおきていることもとりあげて警鐘を鳴らした。

しかし、取締役会の回答は、「当社がかれらを採用したことはない」「生コン業界はセメントより大きな業界。われわれが指導するといった立場にない」などと逃げに終始し、およそ危機感に欠けたものだった。

深刻なドライバー不足についてメーカーとして真剣に向き合うべきだ、運賃の抜本的引き上げが必要だとも連帯ユニオンの株主は指摘した。ところが、取締役会の回答は「現状は理解しているが、輸送労働者の処遇は第一義的に輸送会社が考えるべきもの」と責任を転嫁するものだった。ドライバーがいなければ事業が継続できないのがセメントメーカーなのに、いつまで他人事で済ませるつもりなのか。

以下は、中小企業と労働組合でつくる株主会の事前質問と、これに対する株主総会における取締役会の回答要旨。

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Q1 「17中期経営計画」(2015年度~2017年度)は今年3月で終了しました。「定時株主総会招集ご通知」においては、その総括がひとことも書かれていません。株主のだれもがインターネットを利用しているわけではないのですから、不親切ではないでしょうか。

A(取締役会の回答要旨)東京証券取引所に開示しており、ホームページにも掲載している。

Q2 当社のホームページに掲載された「『20中期経営計画』策定に関するお知らせ」には、「Ⅱ.17中期経営計画の総括」が記載されています。それをみると、3カ年で到達するとした売上高、営業利益、EBITA(営業利益+減価償却費)は、いずれも目標を大幅に下回る結果でした。

(億円/年度)

中計目標
(2017)
1年目
(2015)
2年目
(2016)
3年目(2017) 目標比
売上高 9,500 8,354 7,986 8,711 ▲789
営業利益 800 604 632 650 ▲149
EBITA 1,250以上 1,116 ▲134

他方、純有利子負債を減らすことについては一定の成果を上げました。この点は取締役会と社員のみなさんの努力の賜物でしょう。

しかし、企業の主要な営業成績の指標である目標数値において、計画が達成できなかったことについては真摯に直視すべきです。ところが、この点ついて「総括」は、「収益力の創出・向上につきましては、国内需要が想定よりも大幅に下振れするなど当社グループにとって厳しい事業環境になったこと等により」としています。原因は外的要因にあるとして済ませてよいのでしょうか。

私たちは過去2カ年の株主総会において、次のようにくりかえし訴えてきました。

「もはや右肩上がり成長の時代ではありません。2020年オリンピック・パラリンピック特需についても過大な幻想を持つべきでないことは明白です。「ありたい姿・目指す方向性」を掲げることは大事ですが、大言壮語のような数値目標を打ち出すことが立派なことであることのような錯覚に陥って計画を立てるべきではありません。1年目の実績からみて、中計目標の数値は下方修正すべきではないのか」

しかし、取締役会は修正の必要性を否定し、計画の数字に固執してきました。そして、福田社長は「目標が達成できなかったら私が責任をとる」と明言してきました。どうするのでしょうか。今後は一層努力することが責任の取り方だなどとごまかさず、しっかり総括すべきではないでしょうか。

A 成長投資については計画通り成果をあげた。中期経営計画はたんなる業績予測ではない。「ありたい姿」をかかげて下方修正せずに取り組んできた成果だ。

Q3 新たに策定した「20中期経営計画」は「17中計」と同じ目標数値を掲げています。少子高齢化に拍車がかかる時代の趨勢を読み誤ってはいないか。思考方法が硬直していないかと危惧します。

「中期経営計画」の思考方法を抜本的に変えるべきではないでしょうか。当社の中核的事業であるセメント事業部門のセグメント情報が教えているのは、国内のセメント販売価格の適正化がもっとも必要だということです。ここ数年、米国では利益が上がっているのに、国内の赤字体質がそれを食いつぶしている傾向がずっとつづいています。これは右肩上がりの時代にもてはやされた数量志向、つまり売上高の拡大ばかりに目を奪われて、適正価格形成を二の次にしてきたことのあらわれです。国内において、採算のとれるセメント販売を実現するための戦略と計画こそが求められていると考えますが、取締役会はどのようにお考えでしょうか。

決定的に重要なのは、「SS渡し方式」を可及的速やかに見直すことだと考えられますが、いかがでしょうか。

A 2000年4月導入のSS渡し方式で「品代と運賃の完全分離」が実現でき、商流コストの削減できた。18年が経過し定着している。

Q4 トラック運輸業においては、深刻な「人手不足」、「ドライバー不足」が生じています。国交省は強い危機感をもって次のように警鐘を乱打しています。

「労働時間が全産業と比較して1~2割長い一方で、年間所得は1~4割安い」、また、「平均年齢が高いだけでなく、40歳未満の若い運転手が少ないことが問題。例えば、40歳未満の運転手の割合は大型トラックで1/4」、したがって、「労働条件が悪く、女性や若者の新規就労が少ない中で、既に就労している中高年男性が運転手を続けて業界を支えているという状態」、だから、「こうした状態が続けば、現役世代が引退した後、深刻な労働力不足に陥るおそれ」がある。・・・

これまで取締役会は、「輸送に携わる労働者の処遇改善は、輸送会社が考えるべきこと」などと、まるで他人事のような回答をくりかえしてきましたが、それは誤りです。太平洋セメントの事業も、バラセメント輸送、生コン輸送、砕石・土砂運搬など、大型トラック運転手なしでは成り立ちません。

太平洋セメントの事業の末端を支えるドライバーの労働条件水準の引き上げのために何が必要か、何ができるかを、他人ごとではなく自らの問題として調査、検討すべきではありませんか?

A 輸送に関わることは輸送業者の考えるべきことだ。

Q5 現在、関西の生コン業界では、大阪広域生コンクリート協同組合(木村貴洋理事長)が、ヘイトスピーチで悪名をはせた人物らを使って労働組合攻撃をつづけるという前代未聞の事態がおきています。

ヘイトスピーチはご承知のとおり、在日外国人を標的にした悪質な人種差別・排外主義の言動を指します。ドイツなどでは厳罰対象であることも念頭において日本でも2年前に規制法が成立し、各自治体でも条例づくりがすすんでいます。ところが、大阪広域協組の執行部は、この反社会的行為を主導してきた人物らと手を組んだのです。そして、今年1月には、連帯ユニオンの組合事務所に「ぶっ殺すぞ」などと叫びながら乱入し、組合員に暴力を振るって負傷させる事件も引き起こしました。

これに危機感をもつジャーナリストや知識人ら31人が今年5月、大阪広域協組のこのような行為は企業・業者団体のコンプライアンスからみて問題だとする共同声明を公表し、警鐘を鳴らしています。

また、大阪広域生コンクリート協同組合の非民主的組織運営も問題視されています。そのひとつ、同協組が加盟企業に対しシェア割りに従った割り付けをおこなわず、今年4月に除名決議をなした事件で、大阪地方裁判所は6月21日、除名決議は無効であり、出荷割当てを停止又は減少させてはならないとの仮処分決定を出しました。協同組合とその共同経済事業は、相互扶助精神と中小企業等協同組合法の趣旨にもとづき成り立つものです。

大阪広域協組の社会的規範を逸脱した以上のような行為は許されてよいものではありません。

太平洋セメントは「法令等を遵守するとともに、社会の良識に則って行動」することを企業の行動指針にかかげるグローバル企業です。しかも、大阪広域生コン協組には太平洋セメントの連結子会社が加盟し、その他多数の加盟企業と取引関係を持つ立場にあります。そのような立場である以上、こうした事態を傍観・放置しておくことは決して許されません。取締役会の積極的な行動が求められていると考えますが、いかがでしょうか。

A 弊社は大阪広域協組の構成員ではなく、取引関係もない。回答する立場にない。

以上