熊沢誠さんが強く警鐘を鳴らす

3月10日、「労働組合つぶしの大弾圧を許さない集会」が大阪市西区民センターで開かれた。定員500人の会場が満席となるなか、労働運動研究者の熊沢誠さん(甲南大学名誉教授=写真)が、「現在の弾圧は100年以上も前のイギリスの状況に似ている。刑事免責と民事免責を黄金律として明記した憲法28条と民主主義を破壊するもの。このままではファシズムが始まる」と怒りを込めて強く警鐘を鳴らした。

熊沢さんは指摘する。「19世紀末のイギリスでは共謀罪が猛威をふるい、労働者に団結権はなかった。しかし、1870年~1906年にかけて労働者が全面的な反撃に出て、団結権と団体行動権の承認を勝ち取った。その核心は刑事・民事免責であり、日本の労働組合法にも戦後それが明記された。

しかし、いま警察と検察はその刑事・民事免責をふみにじっている。まっとうな労働組合運動の弾圧はもっとも悪質な民主主義の破壊であり、ファシズムは必ず産業民主主義の蹂躙を含んでいる。社会運動、労働運動の展開、政党やナショナルセンターの枠を越えた幅広い、非妥協的な戦線の構築が必要だ。」

集会の様子はレーバーネットに報告記事が掲載されている。
http://www.labornetjp.org/news/2019/0311namakon

以下は、熊沢誠さんの講演要旨を編集部の責任でまとめたもの。

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関生支部への弾圧は、戦後労働運動史上、未曾有の組合つぶし。労働運動が禁止されていた戦前日本の特高の取調べと同じことが行われている。

イギリスで1870年頃の労働運動の承認をめぐる頃の状況に似ている。
1870年から1906年にいたるイギリスで、労働組合が承認されるということの本当の意味が明らかとなった。1859年、71年に労働組合を作ることを認める、団交、団体行動を認めることが一応承認された。

それに対して、権力が反撃の機会を窺って、同じ年に刑法修正法=ピケットラインを不可能にする法律が成立。ピケ破りに対する働きかけを犯罪にする、ピケ破りの前に立てば妨害、荷物を運ぶのを阻止すれば営業妨害、ピケ破りにしゃべりかけると脅迫、ピケ破りを2、3歩追いかけると追跡、工場の門前で待っていると監視、2、3人で説得すると包囲。そうなると労働運動は不可能になる。

これに対して、労働者階級が全面的な反撃をした。1875年、共謀罪及び財産保護法(共謀や財産保護を簡単に適用してはいけないという法律)、団結禁止法(団結してもいいという法律)、1976年で一応決着が付いたかと思われたが、タッフベールで、労組のストライキに対して会社が損害賠償を請求する。損害賠償に対して、会社勝訴のタッフベール判決。この判決が労働党を作ったといわれている。

1906年労働争議法。労働組合運動が本当に承認されるということは、民法上、刑法上の免責があるということ。刑法上の免責の意味は1人でした行為が非合法でないなら、それが労働組合員によって集団的に行われたからといって非合法とすることはないということ。

今、関生に対して行われていることは、1900年頃に確立された刑事免責を踏みにじる。

民事免責とは何か。労働組合の争議行為というのは必ず、商売に打撃を与える。商売に打撃を与えるためにストライキをするのだから。タフベール判決が破棄されて以来、労働組合が会社に打撃を与えても損害賠償を請求できない。これは日本の労働組合法に明記されている。

これが労働組合が承認されるということの意味。そうすると、今の弾圧がいかに反動的かということがよくわかる。民事免責、刑事免責が労働組合承認の黄金律。

では、黄金律をこめている憲法28条と労組法を踏みにじって、いまなぜ関生に弾圧が来るのか。

なぜ、今か。
日本全体に労働組合運動が衰退しているからに他ならない。
労働組合に弾圧を加えても、たいしたことにならないと権力は読んでいる。今の日本ではストライキが皆無。指標になる争議損失日数は15000日、例えば300人なら50日ストライキ。アメリカはこの49倍、イギリスは11倍、ドイツは73倍。日本はストライキがない国。

いまどきストライキか、というのは彼らの言い分、いまどき、ストライキかという考えが今の日本に浸透している。関生を弾圧してもたいしたことにならないと権力は考えている。

なぜ、関生か。
それは、関生がもう例外的になった、まっとうな労働組合だから。ストライキのできる組合がほとんどなくなって、まっとうな組合だから弾圧された。弾圧されることは勲章。

関生は、支部という名称だが単組であって、企業の枠を越えた業種別産別の単一労組。生コン業界、運送業界の正社員も非正規も包含している。権力が、労働組合は直接雇われていない企業にものを言うのはおかしいというが、その言い方は世界の労働運動の常識から外れている。世界的にはそれが標準的な労働組合。

次に強い労働組合だということ。
産業のあり方を視野におさめて、産業政策をしっかりと持っている。生コン産業のあり方は、川上にセメントメーカー、川下にゼネコン、その間で収奪にあえいでいる、生コン、運送業界の経営の安定なしには、労働条件の安定がありえないという認識の下に、協同組合を育て、セメントに対する共同受注、ゼネコンに対する共同販売で生コン価格の維持を図ってきた。関生支部が活躍している地域をそうでない地域と比べると生コンの価格が高い。中小業界の安定なしに労働条件の維持はありえない。それは誇るべきこと。中小企業との共闘。しかし、セメント業界、生コン業界で関生と関係のない企業には関生は商売の邪魔、競争で買いたたくのが資本の本質だから。

次に関生支部は必要なストライキを実行する。
生コンの価格の維持も副次的な要求として含んで。価格の相場を破るアウト企業=ストライキ、そこへ行って説得をする、それをしてきた。そういう組合だから潰さないといけない、中小企業の収奪や労働者の搾取をはかるゼネコンやセメントが狙っている。

それに従属する利権集団大阪広域協が、関生を商売の邪魔だとして潰そうとしている。
広域協は関生と関係を持つ、業界の安定と労働条件の維持をはかる企業の商売の邪魔をして、商売がなりたたないようにする。そして、良心的な業者が不当労働行為に走る。
さらに、右翼排外主義のヘイトスピーチグループがピケの現場に現れて跳梁する。
そして、国家と警察権力が協力して直接的な弾圧に入ってくる。不当労働行為をする。

刑事の取調べは治安維持法下の特高と同じ。治安維持法の目的の一つは転向。特高の調べは運動から離れろ、離れろ。普通の、まっとうな労働組合員に対して、関生をやめろ、となぜ警察がいえるのか。

自分は、50年労働運動の研究をしてきたが、こんなことは初めての経験。
普通のストを暴行、脅迫、威力業務妨害とする刑事免責の蹂躙。

直接には今のところ損害賠償はないが、民事免責は正当な争議行為に対して行われると労組法は書いている。今の弾圧が刑事裁判で負けると損害賠償が来る可能性がある。国労の202億と同じような損害賠償が広域協から起こされるのではないか。ストライキを非合法の犯罪とみなすという大きな動きが始まっている。

民主主義とは何か。
民主主義とは、人びとが自分の生活に影響をおよぼすことに決定権を持つこと。普通の労働者は大きな権力も大きな財産も政治家とのコネもない。そういう普通の労働者にとっての民主主義とは自分の生活に影響を及ぼす労働条件への決定参加権にほかならない。それが労働三権、それが憲法28条に書かれている。

産業民主主義。
自分は日本の民主主義の中で産業民主主義をいかに根付かせるかに腐心してきた。産業民主主義が日本では弱い。産業民主主義の保障なしに、狭義の政治的民主主義だけでは、普通の一介の労働者にとって民主主義は虚妄。

まっとうな労働組合運動の弾圧は、もっとも悪質な民主主義の破壊。
ファシズムは必ず産業民主主義の蹂躙を含んでいる。自分は労働組合ではないからこの弾圧は関係ないと思うところからファシズムが始まる。

最後に。
しかし、産業民主主義の意味、関生弾圧の本当の意義を野党や労働団体は分かっているのか。
日本の世論の関生の弾圧に対する対応はこのままではとうていダメ。護憲勢力、野党、労働団体は、政治的民主主義の危機、議会主義の危機はいうが、産業民主主義の危機には鈍感。

今日のように、700人の労働者が集まる集会自体がもう少ないが、しかし、ここにいるのは狭い意味の仲間の組合、全労協系の組合ばかり。全労連、連合、普通の企業の労働組合がだれひとり加わっていない。こういうところに来てはいけない気持ちになっている。

関生弾圧は政治や国会の問題にならない、本来なら社民党は国会の問題にして、大阪広域協の木村や滋賀県警の本部長を国会で証人喚問してもいいところ。武委員長も喚問すべき。そこで武委員長が自分のしてきたことを力説すればよい。弁護士の活躍を頼りにしている、裁判闘争では心もとない。社会運動、労働運動の展開、政党やナショナルセンターの枠を越えた幅広い、非妥協的な戦線の構築が必要。(文責・編集部)