ハマキョウレックス・長澤運輸で最高裁判決

6月1日、正社員と非正社員の不合理な労働条件格差の撤廃を求めてたたかうハマキョウレックス事件と長澤運輸事件のふたつの裁判で最高裁が判決を下した。

ハマキョウレックス事件で格差解消へ大きな前進

ふたつの事件は、正社員と非正社員の労働条件について不合理な格差を禁じた労働契約法20条にもとづいて、いずれも連帯ユニオンの組合員がおこした裁判。

ハマキョウレックス事件は、全国規模で展開する伊藤忠系列の大手物流企業、ハマキョウレックス(本社浜松市)の彦根支店の契約社員ドライバーが原告。正社員ドライバーと契約社員ドライバーはまったく同じ仕事をしている。ところが、正社員には支給される無事故手当1万円、作業手当1万円、給食手当3500円、住宅手当2万円、皆勤手当1万円、家族手当の6つの手当が契約社員には支給されない。また、正社員の通勤手当は通勤距離に応じた金額なのに契約社員は一律3000円と低い額でしか支給されていない。

一審大津地裁は通勤費の差額しか不合理と認めなかったが、二審大阪高裁は①無事故手当、②作業手当、③給食手当、④通勤手当の差額の4つを不合理と判断した。

最高裁は今回の判決で、労働契約法20条は、正社員と非正社員の「職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」と指摘。格差が不合理かどうかは「賃金総額の比較のみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮」して判断すべきものだとした。

そのうえで、大阪高裁が不合理と判断した4つの手当に加えて、⑤皆勤手当も不合理と判断した。

規制緩和で過当競争におちいったトラック運輸業においては、荷主や元請運送業者の運賃ダンピングが横行している。このため中小・下請業者は賃金コスト圧縮の手段として正社員の採用を抑え、契約社員という有期雇用を増やしてきた。業界の過当競争のツケが、契約社員ドライバーの不安定雇用と低賃金になってきた。

最高裁の判決は、こうした契約社員ドライバーの不当な格差撤廃と労働条件向上につながるものだ。

 

長澤運輸事件はきわめて不当な判断

他方、最高裁は、ハマキョウレックス事件では格差撤廃につながるまっとうな判断を示したにもかかわらず、定年後再雇用者の格差についてはきわめて不当な判決を下した。

長澤運輸事件は、三菱系列のバラセメント運送会社、長澤運輸(本社横浜市)のバラセメント運転手3人が原告。定年前と定年後の職務にはまったく違いはない。一審東京地裁は、同じ仕事なのだから同じ賃金という、ごく当たり前の判決を下した。ところが、二審東京高裁は、「定年後賃下げは社会的に容認されている」という不当判決を下していた。

最高裁は、定年後再雇用も労働契約法20条の対象になるとし、この点では東京高裁と同様に会社の主張を退けた。しかし、結論においては、精勤手当の不支給だけを不合理とし、そのほかの、およそ8万5000円の職務手当、住宅手当、家族手当、基本給5カ月分の年間一時金の不支給、そして、固定給の大幅カットによる割増賃金の大幅ダウン(正社員の3分の2)のすべてについて不合理ではないとして上告を棄却した。

その理由は、高裁判決がくりかえした「定年後賃下げは社会的に容認されている」の追認にある。それは合理的な根拠を欠いた独断と偏見というほかなく、法的な判断とは到底いえない。しかし最高裁はこの高裁判決を正当化するために、再雇用についての格差が不合理かどうかを判断する場合は、再雇用者は「長期間雇用することは通常予定されていない」、また、「一定の要件を満たせば老齢年金の支給を受けることも予定されている」という事情があるので、「このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものである」といいだした。これは不合理な格差かどうかを判断する場合、再雇用については別の基準で判断すると言っているのとおなじだ。

だから、ほんらいは不合理かどうかを判断する場合は、「個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとに、その趣旨を異にするものである」、したがって、「賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきもの」なのだといいながら、再雇用の場合はこの原則からはずれてもかまわないと言わんばかりの手法を用いた。それは具体的には職務給を全額不支給とした点についての判断方法に端的にあらわれている。

職務給は大型トラックに乗務するという職務に対して支給されるものであるが、長澤運輸はこれを再雇用者については全額カットした。その代わりに歩合給という手当を支給することにしたのだが、歩合給はドライバーの1か月の運搬実績(売上高)に対し一定の料率を掛けて算出するもので、職務給と歩合給はまったく性質が異なる手当であることは一目瞭然である。長澤運輸が職務給をカットした理由は、職務給を全額カットすると割増賃金単価を大幅に下げることができるからだった。ざっといえば1時間あたり600円以上も下がるので、だから、再雇用者の割増賃金単価は3分の2程度になっているのである。

長時間労働が当たり前のようになっているトラック運輸業では、残業代を少なくするために固定給を最低賃金違反にならない程度の10万円台そこそこに設定している企業が多い。だから運転手は世間並みの収入を得るためには馬車馬のように働かざるをえなくなる。長澤運輸もかつてはそうしていた。しかし、組合結成とその後の2004年の4日間ストによって、歩合給を大幅に減らして8万5000円の職務給を勝ち取ったのだった。長澤運輸は不誠実交渉をくりかえし、会社の決めた条件でなければ再雇用しないと言い放ち、この職務給を奪い返してかつての残業依存型賃金を復活させたのだ。

最高裁は労契法20条違反の不合理なものかどうかは「賃金項目の趣旨を個別に考慮する」のだと言っておきながら、職務手当を全額カットしたことが合理的なのか、しかもそのカットによって割増賃金引き下げの効果を生じさせ、企業にとっては合理的だが労働者にとっては不利益変更に等しい不合理性までをもつことついては、なにひとつ検討しなかった。

そして、長澤運輸のあくどいやり口を正当化するために、なんと正社員の基本給、職務給、能率給の合計と、再雇用者の基本給、歩合給の合計とを金額で比較するという手法を用いた。そして、その差は最大12%程度にとどまる(しかも要件を満たせば年金を受け取れる)として、だから不合理と評価できないとしたのである。

おまけに、これは事実にまったく反しているのだが、職務給のカット、その代わりの歩合給支給は組合との団交を経て決まったなどとまで書いた。長澤運輸が不誠実団交を重ねてきたことが東京都労働委員会命令でも明確になっていて、最高裁もその命令を受け取っている。それにもかかわらず、再雇用者の労働条件は組合との団体交渉で決まったかのようにくりかえしており、不合理とまでは言えないという結論を正当化するためのお粗末な粉飾だといわざるをえない。

「社会的容認」論のつじつま合わせのために、二枚舌を使って労契法20条の立法趣旨を骨抜きにするに等しい不当判決というほかない。